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A日新聞社の若い記者が、新党の党首への取材をめぐって取材ノートを捏造して、それが報道されてしまった。誤ったことが報じられたわけで、その記者は免職。上司もそれぞれ処分されるという。
僕自身の経験で言うと、必ずしも新聞の報道は事実を伝えるものではない。記者が伝えたいことを伝えるのだ。記者が書きたいことにうまく整合している「事実」だけを書く。もちろんそうではない記者もいる。断定するのはよくないだろうから、そういう傾向がある記者たちがいると言っておこう。

旧石器捏造事件で、2000年11月、M日新聞が『K高森遺跡』を張っていて藤村の捏造の瞬間を撮影し、スクープとして報道した。他社の後追い記事がすぐに出ないように、日曜日の朝刊でスクープしている。平日だとすぐに夕刊が出てM日新聞のスクープが目立たなくなってしまうからだ。
その数日後、僕のことについてM日新聞に、『助教授、年代を捏造』という記事が出て、はなはだ迷惑した。この記事が出る前日、M日新聞札幌支社のO沢という記者が大学に来て、北十勝の藤村関連『遺跡』について、僕らが発見当時年代を発表したが、その年代を僕が捏造したのではないか、と言った。僕は当時の記者発表時に報道関係に配ったプレスリリースを渡し説明した。そこには年代については未確定であること、記者発表での年代についての根拠。その年代や出土火山灰層についてコメントをもらえるだろう、数名の火山灰学者、地質学者の名前と連絡先を記し、報道関係者が確認できるようにしておいた。このプレスリリースを見せると、O沢は「これじゃあ年代捏造って言えませんね」といって帰っていった。しかししばらくして「デスクに記事にならないから書き直せと言われまして、、、先生、何とか記事になりませんかね」と携帯電話に電話をかけてきた。僕は電池がなくなるほどの時間、O沢記者に発表当時の経緯、疑義があれば地質学関係者に確認して欲しいので連絡先を明記しておいたことなど、昼間と同じことを話した。するとO沢記者は「そのとおりじゃあ記事になりませんよ」と言い残して電話を切った。そして翌日の朝刊の記事が「助教授、年代を捏造」である。
その朝刊の出た日、O沢記者から携帯に電話がかかり何か言うことはないかという。僕はO沢記者に向かって「あなたは人間として恥ずかしくないのか?よく僕に電話をかけてこれるね。」と言うと、「デスクがどうしても記事にしろというので、、、それに見出しは自分がつけるわけではないので、、、」と言い電話は切られた。その後二度とO沢記者は僕の前に現れることはなかった。

この日、僕はA川の高校に出張していて、大学にはいなかった。これがいけなかった。この記事を読んだTV局数社は一日中、僕を追い掛け回したらしい。あるTV局は大学に電話をかけてきて、「出張で不在です、取材は明日に」と言った大学の事務職員に対し、「本人を隠してるんだろう、本人を出せ」とすごんだという。もう犯罪者扱いである。高校に迷惑がかかるので、行き先を言わなかった訳であるが、そんなことは報道関係者にはお構いなしだ。

その日、Dさんこワイドという番組の夕方のニュースに生出演して欲しいという依頼が大学にあり、僕にもその旨伝えられた。大学では僕が袋叩きになるのでは、と心配し出演を断るつもりでいたらしい。しかしその時間ならS幌に帰っているし、自分で釈明もしたいので、僕は学長に相談して許可をもらい出演することにした。S幌駅にはTV局の迎えが来ていて、すぐにスタジオに入り、生放送でニュースに出た。キャスターを相手に北十勝の藤村関連『遺跡』の年代について説明した。この番組の直後、A日新聞やH海道新聞の記者から僕の携帯に電話が入った。記者は言った「ニュース見てましたよ。よく分かりました。自分の社ではこの件については報道しません。M日新聞とは一線を画します。」
ニュースに出てよかった、と思った。

この一件を通して、僕のM日新聞社への評価は一転した。捏造スクープ報道の朝、確か7時前に自宅にM日新聞の記者とカメラマンが来た。僕は自宅のリビングでインタビューに応じた。そのとき僕はM日新聞のスクープで自分の調査してきた『遺跡』が全滅になるかもしれないと不安になっていた。しかし、帰りかける記者たちに、僕は「すごいですね。学者たちも誰も暴けなかったことをすごい取材で暴いた、尊敬します」と言ったことを良く覚えている。本当にすごい取材だと新聞を見て心底思ったのだ。

しかし、M日新聞社への尊敬の念は、上の一件で吹き飛んだ。スクープが欲しいだけの新聞社ではないのか?現場の記者が記事に出来ないと判断したことでも、自分たちの都合の悪いことは伏せて、悪意に満ちた記事を書く。他社と違うスクープが欲しいだけではないのか。

僕は全面的には新聞を信じられない。今回のA日新聞記者の捏造も、スクープを狙うという意味で根が同じだと思う。
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by north-archaeo | 2005-08-30 18:27 | 捏造事件
日経サイエンスの9月号に『人類文化の夜明け  早かった象徴表現の起源』と題する論文が載っている。このHPでも紹介してきたブロンボス洞窟の出土品をめぐるヘンシルウッドの象徴表現をめぐる現代人の文化について紹介されている。ネアンデルタール人の象徴的遺物なども紹介しながら、象徴的思考が10万年以上前に可能だったことが記されている。馬場悠男氏の解説も載っている。学生諸兄には一読をすすめたい。
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by north-archaeo | 2005-08-16 15:41 | 旧石器