日本旧石器学会2010.6.27

6月27日の日曜、明治大学で開催された日本旧石器学会に行ってきた。旧石器学会に参加するのは初めてだった。初日の土曜には所用で参加できず、日曜だけ参加したのだが、とても印象深い、記憶に残る一日となった。列島最古の旧石器が今年度のテーマだった。



 稲田先生の手が挙がった。「九州地方における最古の石器群の諸問題」という午前中最後の発表に対しての質問だった。「個別の遺跡について、どれが遺跡でどれが遺跡でないのか、発表者個人の見解を!」と迫まる質問だった。壇上からは答えられないが後ほど個人的に答えると発表者が回答すると、稲田先生が一喝した。「個別の遺跡の判断については言うことは、研究者としての責任だ!一つ一つの石器群の評価について、この学会のメンバーが判断を言わないでいったい誰が言うのか!」 記憶に残る言葉だった。個別の石器群の評価を避けてシンポジウムが進むことに先生はいらだっているようにも見えた(あくまでボクの推測です)。
 この後、すべての発表に対して15分間のコメントを司会から求められた稲田先生は、用意していたパワーポイントを使ってコメントを始めた。はじめは長崎県入口遺跡の石器・接合資料について。石器の写真とご自分の実測図と報告書の実測図を並べて示し、個別の剥離面の認定について自説を述べられた。それは「出雲産前期旧石器をめぐって」(考古学研究21-4、1975)と同じ語り口で、一つ一つの剥離面について人為か自然かを述べるものであった。聞き慣れない「たまねぎ剥離」という玉髄に特徴的な自然破砕面の説明なども織り交ぜて、人工品ではないという評価だった。
 次に島根県砂原遺跡については5月の協会での発表を含め実測図が提示されないことを批判し、やはり「石器」の写真とスケッチを提示して、成瀬先生断面採集の「石器」について裏面ポジ面の打点の位置から判断して自然の剥離であると述べた。発掘品で尖頭スクレイパーとした「石器」についても尖頭部の一辺が背面に見られる多数の節理面と並行する点などを指摘し人工品でないと評価した。
 午後のパネルディスカッションでは稲田先生が挙手して発言し、砂原遺跡が新聞などマスコミで先行して発表されたことを痛烈に批判した。これに対し松藤先生はあえて石器の実測図でなく写真で公表したと説明し、指摘された砂原遺跡の断面採集石器については2つのバルバスカーがあり打点の位置についても真っ向から反論。さらに石器は古土壌層で出土したと強調した。これに対し稲田先生が出土層と石器認定のあいまいさについて指摘する、という激しい応酬だった。
 すごい議論だった。公開の学会で、こうした論戦が交わされたことがあっただろうか。稲田先生は敢えてこうした論戦見せ、他の研究者に範を示したようにも見えた。個別の石器群について個人の見解を表明することが研究者の責任である、ということを身をもって示された。
 議論を聞いて、自然破砕礫の観察経験の無さについて反省するしかなかった。稲田先生の玉髄の自然破砕面の説明に、ついていけなかった。先生はかなりの数の自然破砕面を見ておられるようだった。私自身は自然剥離面を意識的に集中して観察したり、体系的記載を試みたことはない。自然破砕礫と人工品を認定するトレーニングを体系的に積んだこともない。さまざまな石材の自然剥離・自然破砕礫のサンプルを集め、整理・分類しておくことは教育機関としての務めかもしれない。そんなことを考えながら会場を後にした。
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by north-archaeo | 2010-07-01 17:25 | 旧石器